インフレ・市場変動だけじゃない?長期資産運用で考えるべき金融リスクの種類と対策
はじめに
金融市場に関心をお持ちの皆様にとって、インフレによる資産の購買力低下や、株式市場の変動による資産価値の増減は、よく耳にするリスクではないでしょうか。特に、大切な退職後の資産を長期的に保全・運用していく上で、これらのリスクを理解し、適切に対処することは非常に重要です。
しかし、金融市場に潜むリスクは、インフレと市場変動だけにとどまりません。長期的な視点で資産を管理していくためには、他にも様々な種類の金融リスクが存在することを理解し、自身のポートフォリオ構築に活かしていくことが求められます。
この記事では、長期資産運用を検討される際に考慮すべき、インフレや市場変動以外の多様な金融リスクについて解説します。それぞれのリスクが資産にどのような影響を与える可能性があるのか、そしてそれらのリスクを踏まえてどのようにポートフォリオを構築していくべきか、基本的な考え方をご紹介いたします。これらの知識が、皆様のリスクに強いポートフォリオ構築の一助となれば幸いです。
長期資産運用で考慮すべき多様な金融リスク
金融市場には、実に様々なリスクが存在します。ここでは、代表的なものをいくつかご紹介し、それがポートフォリオにどのような影響を与えうるかをご説明します。
市場リスク(価格変動リスク)
最も一般的に認識されているリスクの一つです。株式や債券、投資信託などの金融資産の価格が、政治、経済、社会情勢など様々な要因によって変動するリスクです。資産の価値が購入時よりも下落する可能性があります。特に株式は、市場リスクの影響を受けやすい資産クラスと言えます。
インフレリスク(購買力低下リスク)
物価が上昇することにより、保有している現金の価値や、将来受け取る金銭(例えば固定利付債券の利息)の購買力が低下するリスクです。例えば、100万円の価値が、インフレによって数年後には以前ほどの商品やサービスを購入できなくなる可能性があります。長期で資産を保有するほど、このインフレリスクは無視できないものとなります。
金利リスク
金利が変動することにより、特に債券価格が影響を受けるリスクです。一般的に、金利が上昇すると、既に発行されている(固定金利の)債券の価格は下落し、金利が低下すると、債券価格は上昇する傾向があります。長期の債券ほど、金利変動による価格への影響は大きくなります。退職後の安定的な収入源として債券を検討する場合、この金利リスクは重要な考慮事項となります。
為替リスク
外貨建て資産(外国株式、外国債券、外貨預金など)を保有している場合に発生するリスクです。為替レートが変動することにより、円換算した際の資産価値が増減する可能性があります。例えば、外国の株式に投資し、その株式の価格が上昇したとしても、円高が進めば、円換算での利益が相殺されたり、損失になったりすることがあります。国際分散投資を行う際には、為替リスクへの理解が不可欠です。
信用リスク(デフォルトリスク)
株式や債券の発行体(企業、国、地方公共団体など)の経営や財務状況が悪化し、利息の支払いなどが滞ったり、元本が返済されなくなったりするリスクです。特に債券投資において重要なリスクであり、発行体の信用力が低いほど、一般的に信用リスクは高くなります。格付け情報などが、このリスクを判断するための一つの指標となります。
流動性リスク
保有している資産を、必要な時に、妥当な価格で、容易に換金できないリスクです。例えば、不動産や非公開株式などは、市場性が低く、売却に時間がかかったり、希望する価格で売却できなかったりする可能性があります。換金性の低い資産を多く保有しすぎると、急な資金需要に対応できなくなることがあります。
多様なリスクを踏まえたポートフォリオ構築の考え方
これらの多様な金融リスクを理解した上で、どのように資産を保全・運用していくべきでしょうか。重要なのは、リスクを完全に排除することは難しいと認識しつつ、自身の目標やリスク許容度に合わせて、様々なリスクへの「備え」をポートフォリオに組み込むという考え方です。
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分散投資によるリスク軽減: 「卵を一つのカゴに盛るな」という格言の通り、異なる特性を持つ複数の資産クラス(株式、債券、不動産など)や地域に分散して投資することは、特定のリスクがポートフォリオ全体に与える影響を軽減する基本的な戦略です。例えば、株式の市場リスクを債券で、国内資産のリスクを海外資産で補い合うなど、それぞれの資産が持つリスク・リターン特性を考慮して組み合わせます。
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リスクの種類と資産クラスの特性理解: インフレリスクに備えるためには、物価上昇に対応しやすいとされる株式や不動産、金や商品などの実物資産の一部をポートフォートに組み込むことが考えられます。金利リスクを考慮するなら、短期債や変動利付債を検討したり、債券の組み入れ比率を調整したりすることが対策となりえます。為替リスクをコントロールするためには、為替ヘッジ付きの商品を選ぶ、あるいは敢えてヘッジしないことで国際分散の効果を追求するなど、様々なアプローチがあります。信用リスクについては、格付けの高い発行体の債券を選ぶ、あるいは複数の発行体に分散することでリスクを管理します。
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自身の状況に合わせたバランス: 退職後の資産保全を重視する場合、現役時代に比べて市場変動リスクや流動性リスクに対してより慎重になる必要があるかもしれません。一方で、インフレリスクへの備えも長期の資産保全においては不可欠です。ご自身の年齢、健康状態、他の収入源、家族構成、そして何よりもご自身の「リスク許容度」を十分に考慮し、どのリスクをどの程度受け入れられるか、どのようなバランスで資産を保有するかを検討することが重要です。特定の金融商品が推奨されるわけではなく、ご自身の理解に基づいたアプローチが求められます。
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定期的な見直し: 金融市場の状況は常に変化しますし、ご自身のライフステージやリスクに対する考え方も変化していく可能性があります。構築したポートフォリオが、当初想定していたリスクバランスを保っているか、定期的に確認し、必要に応じて見直し(リバランスなど)を行うことも、多様なリスクに対応する上で欠かせません。
結論
長期資産運用においては、インフレや市場変動といったよく知られたリスクだけでなく、金利リスク、為替リスク、信用リスク、流動性リスクなど、多様な金融リスクが存在します。これらのリスクはそれぞれ異なる形で資産価値に影響を与える可能性があり、特に退職後の大切な資産を保全していく上では、それらを総合的に理解し、適切に対策を講じることが重要です。
完璧にすべてのリスクを回避することは不可能ですが、多様なリスクの存在を認識し、分散投資などの基本的な考え方に基づきポートフォリオを構築し、定期的に見直すことで、不確実性の高い金融市場においても、目標達成に向けた資産保全の可能性を高めることができます。
ご自身の資産状況やリスク許容度を踏まえて、どのようなリスクに対して、どのような方法で備えるべきか、じっくりと検討してみてはいかがでしょうか。これらの情報が、皆様の長期的な資産保全・運用のための健全な判断の一助となれば幸いです。