長期資産運用におけるポートフォリオの『守り』と『攻め』:それぞれの役割とバランスの考え方
はじめに
金融市場と向き合い、ご自身の資産を長期的に保全・運用していく上で、ポートフォリオという考え方は非常に重要です。ポートフォリオとは、保有する様々な資産の組み合わせ全体のことを指します。このポートフォリオを構築する際、「守り」と「攻め」という二つの異なる役割を持つ資産をどのように組み合わせるか、という視点が有効であると考えられます。
特に、退職後の資産運用など、インフレや市場変動のリスクから資産価値を守りつつ、安定的に資産を保全・運用していきたいと考える読者の皆様にとって、この「守り」と「攻め」のバランスは、目標達成のための鍵となります。この記事では、長期資産運用におけるポートフォリオの「守り」と「攻め」それぞれの役割を明確にし、ご自身の状況に応じたバランスの考え方について解説いたします。
ポートフォリオにおける「守り」の役割とは
「守り」の役割を担う資産は、主に資産価値の大きな変動を防ぎ、インフレによる購買力の低下リスクを緩和することを目指します。具体的には、以下のような目的を持っています。
- 資産価値の安定: 市場全体の大きな下落局面においても、ポートフォリオ全体の価値の減少を抑えるクッションとしての役割を果たします。
- 購買力の維持: インフレが進行しても、資産の実質的な価値(モノやサービスと交換できる力)を可能な限り維持することを目指します。
- 流動性の確保: 必要に応じて資金を引き出しやすい状態を保つことも、「守り」の重要な側面です。
一般的に「守り」の資産と考えられやすいものには、現金や預貯金、短期国債、物価連動債、あるいは特定の種類の債券や不動産などがあります。これらの資産は、株式などの「攻め」の資産に比べて価格変動が比較的小さい傾向がありますが、大きなリターンは期待しにくいという特性があります。
ポートフォリオにおける「攻め」の役割とは
一方、「攻め」の役割を担う資産は、主に長期的な視点での資産価値の成長を目指します。インフレ率を上回るリターンを獲得し、将来の資産を増やすことを目的とします。
- 資産の成長: 企業の成長や経済全体の発展を通じて、保有資産の市場価値の上昇を目指します。
- インフレ対抗: インフレによる資産の目減りを補い、実質的な資産を増加させることを目指します。
「攻め」の資産と考えられやすいものには、株式や投資信託(株式を主要な投資対象とするもの)、リスクの高い債券、一部の不動産投資信託(REIT)などがあります。これらの資産は、価格変動が大きい傾向がありますが、長期的な経済成長の恩恵を受けることで、大きなリターンを期待できる可能性があります。
「守り」と「攻め」のバランスの重要性
長期的な資産運用、特に退職後の資産保全・運用においては、この「守り」と「攻め」のバランスが極めて重要になります。バランスの考え方は、個々の状況、特にリスク許容度、運用期間、そして運用目標によって異なります。
リスク許容度とは、資産運用における損失に対する耐性のことです。一般的に、リスク許容度が高い人は「攻め」の比率を高くしやすく、リスク許容度が低い人は「守り」の比率を高くする傾向があります。しかし、資産運用に「絶対」はありません。高いリターンを追求すれば、その分だけ大きな損失を被る可能性も高まります。逆に、安全性を追求しすぎると、インフレによる資産の実質価値の目減りリスクが高まる可能性があります。
ご自身の状況に応じたバランスの考え方
退職後の資産運用という視点では、多くの読者が資産の保全を重視されることと思います。これは、現役時代と比較して、今後の収入が限定的になる場合が多いことに起因します。したがって、過度なリスクを取り、資産を大きく減らしてしまう事態は避けたいと考えるのが自然です。
しかし、だからといって「守り」の資産だけでポートフォリオを構成することが常に最適とは限りません。人生100年時代とも言われる今日では、退職後の期間が数十年に及ぶことも珍しくありません。この長い期間において、インフレは静かに資産の購買力を削いでいく可能性があります。また、ある程度の資産成長がなければ、予期せぬ支出や長期にわたる生活資金の必要性に対応しきれない場合も考えられます。
そのため、退職後の資産運用においても、ご自身のライフプランやリスク許容度を踏まえつつ、「守り」の資産を核としながらも、緩やかな資産成長を目指す「攻め」の資産を適切に組み合わせる、バランスの取れたポートフォリオを検討することが重要です。
バランスを決定する際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- リスク許容度: どの程度の価格変動まで受け入れられるかを具体的に考えます。
- 運用期間: 資産を取り崩しながら生活する場合、いつ頃までにどの程度の資金が必要か、あるいはどのくらいの期間で資産を維持したいかを考慮します。期間が長いほど、ある程度の「攻め」の要素を取り入れやすくなる場合があります。
- 目標: 資産を大きく増やすことよりも、資産価値を維持し、インフレに負けないことを優先するのか、あるいはインフレ率を少し上回る成長を目指すのかなど、運用目標を明確にします。
- 他の資産: 年金収入や不動産など、金融資産以外の収入や資産も考慮に入れます。
これらの要素を総合的に判断し、「守り」の比率と「攻め」の比率を決定します。例えば、比較的保守的な運用を希望する場合、「守り」の資産の比率を高くし、「攻め」の資産は分散投資されたリスクの低いものを選ぶ、といったアプローチが考えられます。
まとめ
長期的な資産運用において、ポートフォリオの「守り」と「攻め」という視点を持つことは、ご自身の資産運用戦略を構築する上で非常に有効です。「守り」は資産価値の安定と購買力の維持を目指し、「攻め」は長期的な資産成長を目指します。特に、退職後の資産保全・運用を考える際には、資産の保全を重視しつつも、インフレリスクへの対応や緩やかな資産成長も視野に入れ、ご自身の状況に合わせたバランスの取れたポートフォリオを検討することが重要です。
ここで述べた内容は一般的な考え方であり、個々の状況によって最適なバランスは異なります。ご自身のライフプランやリスク許容度をしっかりと見つめ直し、無理のない範囲で、ご自身の目標達成に資するポートフォリオ構築を検討されることをお勧めいたします。