金融市場レジリエンス戦略

長期資産を守る「守りの資産」の役割:インフレ・市場変動に強いポートフォリオの考え方

Tags: 資産運用, ポートフォリオ, リスク管理, 長期投資, 資産保全, インフレ対策

長期資産保全における「守りの資産」の重要性

金融市場は常に変動しており、インフレや市場の急落といった様々なリスクが存在します。特に退職後の資産運用においては、積極的に資産を増やすこと以上に、築き上げた資産をこれらのリスクから守り、安定的に保全していくことが非常に重要になります。

多くの方が、資産運用と聞くと株式のようなリスク資産を思い浮かべるかもしれません。しかし、長期的な資産保全を考える上で、ポートフォリオの中に「守りの資産」を適切に組み入れることは、これらのリスクを和らげ、資産全体の安定性を高める上で欠かせない要素となります。

この記事では、長期的な資産保全を目指す上で、「守りの資産」がどのような役割を果たすのか、代表的な資産の種類とその特徴、そしてインフレや市場変動といったリスクにどう立ち向かうのかについて、具体的な考え方を解説します。

「守りの資産」とは何か

「守りの資産」とは、一般的に価格の変動が比較的穏やかで、市場全体が大きく下落する局面でも価値が大きく目減りしにくい傾向のある資産クラスを指します。これらの資産は、積極的に大きな収益を追求するというよりは、ポートフォリオ全体の価値を安定させ、下落リスクを抑える役割を期待されます。

守りの資産は、株式などの価格変動が大きい資産(これを「攻めの資産」と呼ぶことがあります)とは異なる値動きをすることが多く、特に市場が混乱し、多くの資産クラスが下落するような状況下で、その相対的な安定性や、場合によっては値上がりによってポートフォリオ全体の下落幅を緩和する効果を発揮します。

代表的な「守りの資産」とその特徴

長期資産保全の観点から「守りの資産」として考えられる代表的な資産クラスには、以下のようなものがあります。それぞれに異なる特徴とリスクが存在することを理解しておくことが大切です。

現金・預金

最も身近で分かりやすい「守りの資産」です。いつでも引き出せる高い流動性を持ち、元本が保証されることから、短期的な資金ニーズに対応したり、市場変動から一時的に避難したりする際に重要な役割を果たします。

ただし、現金・預金はインフレ(物価上昇)のリスクに弱いという側面があります。物価が上昇すると、現金の額面価値は変わりませんが、それで購入できるモノやサービスの量は減少するため、実質的な価値は目減りしてしまいます。長期で保有する場合は、インフレによる購買力の低下を考慮する必要があります。

債券

国や企業などが資金を借り入れる際に発行する有価証券です。定期的に利子(クーポン)が支払われ、満期時には元本が払い戻されるのが一般的です。債券は種類によってリスク・リターン特性が大きく異なりますが、一般的に株式と比較すると価格変動が小さい傾向にあります。

特に、信用力の高い先進国の国債などは、比較的安全性の高い資産とみなされます。市場金利の変動による価格リスク(金利が上昇すると、既に発行されている低金利の債券価格は下落する傾向がある)や、発行体の経営状況悪化によるデフォルトリスク(信用リスク)も存在します。しかし、株式市場が大きく下落する局面では、安全性の高い債券に資金が流入し、価格が上昇するといった逆相関の動きを見せることがあり、ポートフォリオの安定に寄与する場合があります。

実物資産の一部

不動産や金(ゴールド)といった実物資産も、状況によっては守りの資産としての性質を持つことがあります。

インフレと市場変動に対する「守り」の機能

長期的な資産保全を脅かす主なリスクであるインフレと市場変動に対して、「守りの資産」は以下のような機能を発揮することが期待されます。

インフレに対する備え

現金や低金利の資産だけでは、インフレによって資産の実質的な価値が徐々に失われてしまいます。インフレ連動債(物価の上昇に合わせて元本や利息が増える債券)や、長期的に見てインフレに連動する傾向がある実物資産の一部をポートフォリオに組み入れることは、資産の購買力を維持するために有効な手段となり得ます。守りの資産の中にも、インフレへの耐性が異なるものがあることを理解し、バランスよく組み合わせることが重要です。

市場変動(価格下落)への耐性

株式市場などが大きく下落する「リスクオフ」の局面では、多くの投資家が安全資産へ資金を移動させる傾向があります。これにより、安全性の高い国債などの債券価格は上昇することがあります。また、ポートフォリオに組み入れられた価格変動の小さい守りの資産は、株式などの下落を相殺する形で、ポートフォリオ全体の下落幅を抑えるクッションの役割を果たします。この、異なる資産クラスの値動きの違いを利用してリスクを低減する考え方が、分散投資の根幹となります。

ポートフォリオにおける「守りの資産」の組み入れ方

「守りの資産」をポートフォリオにどの程度組み入れるべきかは、画一的な答えがあるわけではありません。投資を行う方の現在の状況、今後のライフプラン、目標、そして最も重要な「リスク許容度」によって最適なバランスは異なります。

一般的に、リスク許容度が低い方や、資産の保全を最も重視する方、運用期間が比較的短い方(ただし、退職後の長期的な取り崩しを考慮する場合はこの限りではありません)は、ポートフォリオに占める守りの資産の比率を高くする傾向があります。一方、リスクを取って積極的な成長を目指す方は、守りの資産の比率は低くなるでしょう。

ポートフォリオ構築においては、「攻めの資産」と「守りの資産」を組み合わせることで、期待されるリターンと許容できるリスクのバランスを取ることが基本的な考え方となります。守りの資産は、市場が不安定な時期に心の安定をもたらし、慌てて損失を確定させてしまうような行動を防ぐ役割も期待できます。

ご自身の運用目標やリスク許容度をしっかりと把握し、信頼できる情報に基づき、ご自身の状況に合った資産配分を検討することが重要です。特定の資産クラスに偏りすぎず、分散投資の考え方を基本にポートフォリオを構築することが、長期的な資産保全につながります。

まとめ

長期的な資産保全を目指す上で、「守りの資産」はインフレや市場変動といった避けられないリスクから資産を守る上で重要な役割を果たします。現金・預金、債券、そして一部の実物資産といった守りの資産は、それぞれ異なる特徴を持ち、インフレへの耐性や市場変動時の挙動も異なります。

ご自身の運用目標やリスク許容度に合わせてこれらの守りの資産を適切にポートフォリオに組み入れることは、資産全体の安定性を高め、長期的な資産形成をサポートします。守りの資産も万能ではなく、それぞれに固有のリスクがあることを理解し、定期的にポートフォリオを見直しながら、ご自身の状況に合った最適なバランスを維持していくことが、安心して資産を保全・運用していくための鍵となります。