なぜ異なる資産に投資する?:ポートフォリオのリスクを減らす「相関」の考え方
はじめに
金融市場への投資を考える際、多くの方が「リスク」という言葉に直面されるかと思います。特に、退職後の生活資金など、将来のために大切な資産をインフレや市場の大きな変動から守り、安定的に運用したいとお考えの方にとって、リスク管理は最も重要な課題の一つです。
リスクを管理するための基本的な考え方に「分散投資」があります。これは、一つの資産に集中して投資するのではなく、複数の異なる資産に分けて投資することで、全体としてのリスクを抑えようという手法です。「卵を一つのカゴに盛るな」という格言で知られているように、古くからリスク管理の有効な手段とされています。
しかし、「なぜ異なる資産に分けることがリスク低減につながるのか」という根本的な理由については、必ずしも明確ではないかもしれません。この記事では、分散投資の背景にある重要な概念の一つである「相関」に焦点を当て、なぜ様々な資産に投資することがポートフォリオ全体のリスクを減らすことにつながるのかを分かりやすく解説いたします。
分散投資の基本的な考え方
分散投資の目的は、特定の資産価格の急落がポートフォリオ全体に与える影響を和らげることにあります。例えば、株式だけに投資していた場合、株式市場全体が大きく下落すれば、資産価値は大きく減少してしまいます。しかし、株式に加えて、株式とは異なる値動きをする資産にも投資していれば、株式が下落した際に他の資産が値上がりするか、あるいはあまり値下がりしないことで、ポートフォリオ全体の下落幅を抑える効果が期待できます。
これは直感的には理解しやすいかもしれませんが、異なる資産を組み合わせることでリスクがどのように、そしてどの程度減るのかを考える上で、「相関」という考え方が役立ちます。
「相関」とは何か?資産運用における意味
「相関」とは、二つの物事がどれだけ一緒に、あるいは逆に動くかを示す統計的な指標です。資産運用においては、異なる二つの資産の価格やリターンが、どの程度似たような動きをするかを表すために使われます。相関の度合いは、「相関係数」として-1から+1までの数値で示されます。
- 相関係数が+1に近い場合(正の相関が強い): 二つの資産の価格は、ほぼ同じ方向に、似たような度合いで動く傾向があります。例えば、一方の価格が上がれば、もう一方の価格も上がりやすい関係です。
- 相関係数が-1に近い場合(負の相関が強い): 二つの資産の価格は、逆方向に、似たような度合いで動く傾向があります。例えば、一方の価格が上がれば、もう一方の価格は下がりやすい関係です。
- 相関係数が0に近い場合(相関が低い): 二つの資産の価格は、特に関係なく、ばらばらに動く傾向があります。
資産運用において分散投資の効果を高めるためには、相関が低い、あるいは負の相関を持つ資産を組み合わせることが重要になります。
ポートフォリオのリスク低減における相関の役割
相関が低い資産や負の相関を持つ資産をポートフォリオに組み入れることで、どのような効果が期待できるのでしょうか。
想像してみてください。相関が+1に近い二つの資産(AとB)だけに投資した場合、資産Aが大きく値下がりすると、資産Bも同様に値下がりする可能性が高いため、ポートフォリオ全体のリスクはあまり低減されません。
一方で、相関が低い、あるいは負の相関を持つ二つの資産(AとC)に投資した場合を考えてみましょう。資産Aが値下がりした時に、資産Cは値上がりするか、あるいはあまり値下がりしないかもしれません。これにより、資産Aの値下がりによるポートフォリオ全体への影響を、資産Cの値動きで打ち消す、あるいは緩和する効果が期待できます。結果として、個々の資産のリスクを合計したものよりも、ポートフォリオ全体としての価格変動(リスク)を抑えることができるのです。
これが、異なる資産に投資することがリスク低減につながる基本的なメカニズムです。資産間の相関を理解し、それに基づいて資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体の安定性を高めることが可能になります。
長期資産保全のための相関を考慮した分散投資
退職後の資産保全という視点では、市場の大きな下落局面でも資産価値の目減りを最小限に抑えることが特に重要になります。このような目的においては、一般的に株式のような価格変動が大きい資産だけでなく、債券のような比較的価格変動が穏やかで、株式との相関が低い、あるいは負の相関を示す傾向がある資産を組み合わせることが有効な戦略の一つと考えられます。
過去のデータを見ると、経済状況によっては株式と債券が逆の動きをすることがあります。例えば、景気後退期には株式市場が下落する一方で、安全資産とされる債券に資金が流れ込み、価格が上昇するといった動きが見られることがあります。このような特性を持つ資産を組み合わせることで、一方の資産が不調な時に他方の資産がポートフォリオを下支えし、全体としてのリスクを抑制する効果が期待できるのです。
ただし、特定の資産クラスの相関関係は常に一定ではありません。経済環境や市場参加者のセンチメントによって変化することがあります。そのため、過去の相関関係はあくまで参考として捉え、絶対的なものとして reliance しないことが重要です。
注意点:相関は常に一定ではない
資産間の相関関係は、特定の経済サイクルや市場環境下で観測される傾向を示すものですが、将来にわたってその関係が保証されるわけではありません。金融危機のような極端な市場環境においては、普段は相関が低いとされる資産クラス間でも、一斉に価格が下落するなど、相関が高まる「リスクオフ」の動きが見られることもあります。
したがって、相関の考え方を資産運用に取り入れる際は、あくまで長期的な視点でのポートフォリオの安定化を目指すためのアプローチとして捉えることが大切です。短期的な市場の動きに一喜一憂せず、長期的な目標を見据えたポートフォリオ構築に努める姿勢が求められます。
まとめ
この記事では、分散投資の効果を支える重要な概念である「相関」について解説いたしました。異なる資産に投資することは、それぞれの資産の値動きの相関が低い、あるいは負である場合に、ポートフォリオ全体のリスクを効果的に低減することにつながります。
退職後の資産をインフレや市場変動から守り、安定的に保全・運用するためには、単に複数の資産に投資するだけでなく、それらの資産間の相関を考慮したポートフォリオ構築が有効なアプローチとなります。株式と債券のように、一般的に相関が低いとされる資産クラスを組み合わせることは、ポートフォリオの安定性を高めるための一つの基本的な考え方です。
金融市場には常に不確実性が伴いますが、相関のような基本的な概念を理解し、長期的な視点での分散投資を実践することで、リスクを管理しながら大切な資産を育てていくことが可能になります。ご自身の資産運用目標やリスク許容度を踏まえ、どのような資産の組み合わせが最適かを考える上で、この記事が参考になれば幸いです。